花びらで染めたレザー
植物染料で革を染める技術はネットで調べてもいくつか出てきますが、花びらから抽出した色素を革に染める方法は誰もやっていないらしく、今回実験してみました。
染料としてよく使われる素材
植物などの天然染料は化学染料に比べ染まりにくく、色落ちも早いことはよく言われていますが、それは革においても同じようです。
革に使われる染料として、比較的染まりが強い藍、コチニール、茜、柿渋、五倍子や樹皮などタンニン系の素材が使われているようです。
自分が調べた限りでは、花びらなどの染料で革を染めているところはないようです。
革の選定
綿など植物繊維を染める場合には、豆乳に漬けたりする濃染処理が必要です。
これは植物繊維の表面にタンパク質を付け、カチオン化することにより、天然染料のアニオンと結びつきやすくするためです。
カチオン、アニオンとは
アニオンは電荷を放出するイオン。つまりマイナスの陰イオンになります。
カチオンは逆に陽イオンのことです。
プラスとマイナスは引き合うので、アニオンとカチオンの組み合わせがくっつきやすく、アニオンの染料にはカチオンの繊維が結びつきやすいということになります。
革のなかでもタンニン鞣しアニオン寄り、クロム鞣しはカチオン寄りとのこと、今回はタンニン鞣しの革を使うことにします。
中でもタンローという革は、革の油分や水分を抜いているので、染色用としては最適です。
とはいえ、同じタンローという名前でもメーカーによりまったく違う仕上げなので、実際に購入して実験を繰り返すしかないようです。上記写真はどちらもタンローですが、左側はやや生成りで革の表情が残り、右側は真っ白でつるっとした表面です。
また、同じメーカーでもロットによって革の表情は違うので注意が必要です。
実際に染めてみた
タンローの革は染色用とだけあって、染料をよく吸い込みます。試しにつるっとしたタンローに10回ほど染色、乾燥を繰り返してみました。そしてしばらく日光に当てました。
左から染色後1か月、染色後3か月、染色直後です。中心の丸が染色していない革で、日焼けで茶色くなっています。
日にちがたつにつれ色落ちはしていますが、真っ白になることもダマになることもなく、全体的に革の白い部分が出てきた感じです。
このつるっとした革は、染まりつきはよく見た目も良い色合いですが、色落ち速度は速く摩擦堅牢度にも難がありそうでした。
次は生成りのタンローで試して見ます。
左から染める前、染めた直後、染めてから3か月です。
個人的に革の表情が出ているこちらが好みです。
色落ちもこちらの方が少ないようです。
染めている段階ではこの革の方が色が入りにくかったので、意外な結果です。
育てる革の作り方
革製品を使ったことのある方なら、革の経年変化については理解があるのではないでしょうか。
使い込むうちにつやが出て飴色になる変化を、劣化したとクレームを言う人はいないでしょう。
個人的には、天然染料で染めた革が徐々に色落ちしていき、代わりに革本来の経年変化が追い付いてくるというのが理想です。
そこである実験をしてみることにしてみました。
さて、これは先ほどの生成りの革にハイビスカスの染料を塗ったもの、プラスひと工夫です。
左から染める前、染めた直後、1か月後、3か月後です。(日光にずっとさらした状態)
どうでしょう、経年変化していると言っても良いのではないでしょうか。
先ほどの淡いピンク色とはまた違った変化ですが、これはこれで使い道がありそうです。
前回と違うのは、ミョウバンを添加したのと、蜜蝋ワックスを塗りました。
ミョウバンは顔料作りでも使いますが、染料を凝集して濃い色素がとれるようになります。
そして蜜蝋自身が紫外線をある程度遮断し、日焼けの効果を期待しましたが、その通りになってくれました。
出来るだけ退色を抑えるには
天然染料を使っているとどうしても退色は避けられません。
通常の草木染めでは以下の方法が退色を防ぐ手段として知られています。
・染める布を綺麗に洗って汚れを落とす
・布にしっかりと濃染処理をする
・布にしっかりと媒染剤を定着させる
・染料は素材を煮だした後、不純物を取り除く
など
要はひとつひとつの工程を丁寧にして、いかに不純物を減らして色素をしっかり布に染めるかということが求められています。
それは革であろうと同じこと。しっかりと表面の汚れや油分をふき取り、染料は不純物を取り除いたものを使い、ミョウバンでできるだけ濃度を濃くする。
最後は蜜蝋ワックスなどで色止めをすればある程度は大丈夫なのではないでしょうか。
今回花びらでも染めることができたので、今度は他の植物にも応用してみようと思います。