アントシアニン染めをする人が少ない理由
様々な手染めや草木染めの手法がある中、ハイビスカスなどのアントシアニンの色素を使った染め方はあまり多くありません。
理由はアントシアニンは染料としてあまり適しておらず、すぐ色落ちするという点が考えられます。
特に日光堅牢度に関しては、数日で色が褪せてしまうほど、実験や遊びで行うことはあれど商品化には難しいものがありました。
私自身研究を続けていても、アントシアニン単独での染めは難しいと感じています。
個人的な実験の最終目標は、ハイビスカスで染めた布を普段使いすること、ですが、それに向けて今回新しい知見が見つかったので実験を再開することにしました。
以前色素の高濃度抽出を行いましたが、今回は媒染の方法や染液のPHを調整した状態で、染まった後どうなるかを検証しています。
カチオン アニオンについて
以前の投稿にもありましたが、布が染まる仕組みとしてイオンという言葉がよく出てきます。
簡単に言うと、布が陽イオン(プラス)なら陰イオン(マイナス)の染料のつぶがくっつきやすく、逆に布がマイナスならプラスの染料が染まりやすいという理屈です。
負に荷電したイオンのことを「アニオン」または「陰イオン」
正に荷電したイオンのことを「カチオン」または「陽イオン」と呼びます。
草木染めの染料はほとんどが陰イオンのため、布をプラスに傾ける助剤(カチオン剤)を使えば、マイナスとプラスが引き合い濃く染まります。
こう考えると草木染をする際には布にカチオン剤を塗っておけばいいと思われますが、使い方によっては草木本来の色合いが損なわれたり、少量といえど化学薬品に対する抵抗がある方もいられるので、実際に使う機会は少ないです。
今回は様々な条件の元、どのように染めると最も濃く染まるのか実験を行います。
実験内容
今回は10通りの染め方で実験を行いました。まずは
- 布をあらかじめカチオン剤で浸す
- 布をあらかじめアニオン剤で浸す
- 布はそのまま
3つの条件と、ハイビスカスの花びらから抽出した色素も
- アルカリ性
- 酸性
さらに媒染も
- 先媒染
- 後媒染
媒染剤はミョウバンを使いました。
そしておまけとして
- タンニン処理をする
- タンニン処理をしない
布も用意しました。これらを組み合わせて試してみます。
紙コップに綿の晒布の切れ端をいれ、ハイビスカスの色素を常温30分浸し、水洗いを行います。紙コップの液体の色が違うのは、酸性とアルカリ性でPHが変わるためです。
結果
左から徐々に濃くなるように並べてみました。同じ染料でも明らかに結果に差が出ました。
濃く染まった布は共通して「アニオン化剤を使用」「先媒染」
薄く染まった布は共通して「後媒染」
という結果になりました。
ここからは考察になります。
- アントシアニン染めにおいて、先媒染はほかの条件よりも確実に濃く染めることに有効
- アントシアニン染料はPHでプラスとマイナスが変わる(酸性ではプラス、アルカリ性ではマイナスに変わる)はずだが、染まり具合においては差はない
- 一旦染料をアルカリ性にして、染めた方が布への定着量が多い
- タンニン処理はアントシアニン色素を濃く染める助けをする
- カチオン化剤、アニオン化剤の違いはあまり見られない
この実験結果より、現状アントシアニン染めを最も濃くする方法は
- 布を事前にタンニン処理しておく
- 先媒染しておく
- 染料はアルカリにして、染める
- 完全に乾いたら布を酸性に傾ける
ことが最も有効だとわかりました。
ただ、残念なことにこれらは染めた直後の話であり、日光にさらすとどの布も1週間ほどで色が抜けてしまいました。
今後は濃く染めた後、どのように長期間定着できるのかの実験に進みたいと思います。