以前、ハイビスカスの花びらで染める記事を書きました。
今回は、さらに深堀りして考察してみます。
あくまでの今回の考察は科学的なデータに基づいたものではなく、個人の感想や経験則から書いてある部分が多々ありますのでご了承下さい。
アントシアニン色素は染めにくいという常識
様々な研究からも、アントシアニン色素は堅牢度が低く、
日光や空気にさらすとどんどん色落ちすると分かっています。
純粋に赤い色に染めたい場合は、ノニや蘇芳、茜、紅花などをおすすめします。
今回はハイビスカスの活用方法ということで、アントシアニンのみの考察になります。
出来るだけ色を濃く染め、長持ちさせるためにはいくつかステップが考えられます。
1.花びらから取れるだけたくさん色素を取り出す
2.取り出した色素をできるだけ布に定着させる
3.定着させた色を落とさない
単純ですが、各ステップを丁寧に行うと結果的に濃い赤色に染まった布が出来上がるわけです。
花びらから色素を取り出す方法
通常の草木染めは、材料を煮だして色素を抽出しますが、アントシアニンは熱に弱いため煮出すことは厳禁です。
色々と温度を変えて試して見ましたが、常温で放置(たまに花びらを揉みこむ)が一番コスパが良いようです。
放置時間は出来れば1日、最低でも3時間ほどが良いと思います。
アントシアニンの色素はPHが酸性状態で安定すると言われています。
確かに少し酸性状態の水に花を入れるとみるみる色素がにじんできます。
ただ、個人的には、すぐ染める場合は中性が一番適していると思います。
もしくは、色素抽出の時点は弱酸性で、布に染める時は中性にするのがおすすめです。
これは科学的な根拠はありませんが、実際に50回ほど試した結果として、
中性の染液で染めたほうが、後の色抜けが少ないという経験則です。
色素を布に定着させる
アントシアニン色素を安定させる方法で一番簡単なのは、
染液を酸性にすることです。
確かに水溶液の状態で、酸性に傾けると、鮮やかな赤色になり、色素は安定します。
後は、糖や有機物をくっつけること。
厳密にいえば、アントシアニジンに糖をくっつけた状態がアントシアニンです。
例えばワイン。
ワインの中にあるアルコールや糖、タンニンなど様々な物質がアントシアニンと結合し、
赤い色素が安定しています。
後は、そもそも染液に含まれるアントシアニン自体の量を増やすこと。
それにより、アシル化しやすくなり、結合が強化されます(その可能性が高くなります)
アントシアニンに有機物がくっついた状態をアシル化といいます。
とはいえ、アントシアニンの結合は人の力でコントロールできないので、染液を酸性にすることが最も簡単な方法になります。
そして、アシル化したといっても、酸素や日光にさらされることで、徐々にアントシアニンの量は減っていきます。(ワインは熟成すると少しずつレンガのような色になっていくように)
発酵染めやアルコール染めも、酵素、菌やアルコールをアントシアニンに結合させて安定化させるひとつの手法だと推察されます。
タンニンもアントシアニン染めに有効と考えられます。
ワインなどの渋みは縮合型タンニン(プロアントシアニジン)を含んでおり、耐光性が高いため、タンニン下地の布を使うとアントシアニン染めが多少濃くなります。
(タンニンでなめされた革製品を日に当てると色が濃くなるように、プロアントシアニジンは日光に当てると濃くなる特徴があります。)
様々な論文などで、染液を酸性に傾けることがセオリーとされていますが、個人的にはあまり信用していません。
色素を安定にすることで、逆に布に定着しにくくなるのではという考えです。
布に定着させる時点では中性の少し不安定な状態にして、
色素を染み込ませて、後から酸性に傾けて定着させることがベストだと思います。
正解はありません、あくまで自分が見て、実際に実験した結果ということです。
結論
より濃く、長持ちさせるためのアントシアニン染めの方法は以下の通りです
・原料は多ければ多い方がよい。
例:ハンカチ一枚染めるのに、最低でも乾燥した花びら10グラム以上
・摘みたての花びらが良い
・ミョウバン先媒染する
ミョウバンの金属アルミ成分がアントシアニンと結合すると安定する
先媒染後、布を干してPHを落ち着かせる
・原料を煮ださない。常温の水でゆっくり抽出。
出来れば1晩。
・できるだけPHを急激に変えない
急にアルカリから酸性、などは色素が抜ける
・布に定着させるときは紫色ぐらいのPHが良い
ミョウバン先媒染していると布が弱酸性に傾いているはず
その状態で染液に付けると丁度良い。
・布を染めた後、日陰で乾燥させておく。
1晩ほどおけばなおよし。色素をしっかり定着させる
・紫色の布を弱酸性の水で軽く洗う。
赤色にして安定化。その後水道水で洗い流して干す。
正直これは全部しなくても劇的に結果が変わるわけではないですが、
少なくとも、酸性の状態で布に染めるのと、中性の状態で布に染めるのとではその後の色持ちが変わります。
以前、絹で染めた布は、室内で放置していても2年ほどピンク色が残っていました。
おまけ
個人的にはワインの熟成の色変化が理想の草木染めの形だと思っています。
どうしても色落ちは草木染めのデメリットとして捉えられるのですが、
熟成、経年変化と捉えれば、また違った価値が生まれるのではと感じています。
(ジーンズ畑にいたならではの発想ですが)
赤ワインの色味は、アントシアニンの赤みが抜けると、タンニンの成分や他の有機物の色が顔を出してきます。
この写真、全てアントシアニン染めですが、それぞれ重ね染めしているので色が変わっています。
例えば真ん中の布は、サトウキビの黄色色素で染めてから、アントシアニンで染めたので、緑が強く出ています。
左の布は、シャリンバイでタンニンを含ませ染めてからアントシアニンを乗せています。
これらが今後どのような色変化がするのが楽しみですが、その楽しみが、ジーンズのエイジングのような価値が出せたらと考えています。(もしかしたらただ退職して白っぽくなるだけかもしれませんが)