植物繊維での織物の歴史
織物として植物繊維を使うことは歴史上珍しいことではありません。
和紙の時もそうですが、人々は身近にあった植物から繊維を取り出し、麻、綿、絹、動物の毛など様々な繊維素材が開発されてきました。
日本の伝統的工芸品としては全国で38種類の織物が登録されていますが、
日本3大古布である「羽越しな布」「沖縄の芭蕉布」「葛布」は今でも古来からある植物繊維を糸にする手法で、織物を作っています。
理論的にはあらゆる植物で織物が可能のようです。しかし沖縄でメジャーな植物であるハイビスカスで織物を作っている日本の地域は歴史上見当たりません。それはなぜか。
今回ハイビスカスから織物を織ってみてその理由が分かった気がします。
繊維を織る
繊維を作るまでの工程は以前の記事で紹介しました。
繊維の状態になったハイビスカスは光沢がありとても美しいです。苧麻や芭蕉など様々な原始繊維と見比べても、葛布にも劣らない美しさではと個人的には思います。
リグニンを除去したセルロースはベージュで透明な色が見えてきます。
そしてこの繊維の特徴は、色がとても乗りやすいのです。
草木染めを植物繊維に行う場合は基本的に濃染処理をする必要があるのですが、そういった色止め処理なしに染色可能です。繊維の特徴として、空洞が多いことが、色素が侵入しやすいのではと予想されます。
今回は「糸」にすることなくこの繊維の状態でそのまま織り機に通すことにしました。
葛布はまさに撚りをかけない無撚糸で織られています。
通常織物をする場合は繊維を下記工程を通して「糸」にしてから行います。
・繊維を洗って選別
・繊維を裂く
・繊維を績む(繊維をつなぐ)
・撚りをかける
・巻き直し、糊付け
織物の世界では、糸にするまでの工程が重労働で、実際の織りの工程は全体の一部分にすぎません。
様々な植物で織物を行う師、出口富美子先生の元織っていきます。
繊維を糸にせず織る、経糸を麻にするといった工程省略で、誰でも簡単に織物ができるように工夫されています。
経糸もハイビスカスの繊維にし、密度を大きくすると、葛布や芭蕉布のような風合いが出てくると思いますが、伝統的工芸品づくりを目指しているわけではないので、また時間がある時に試してみます。
様々な作品作り
見た目、手触りともに葛布に似たような野性味あふれる布が出来ました。
無撚糸のため、見る角度によって光沢が変わり、さらに繊維を細くすることで服飾にも応用できそうな気がします。
なぜハイビスカスの織物は浸透しなかったのか
染色性も良く吸水性もあり、見た目にも美しいハイビスカスの繊維。
身近にある植物の中でなぜ織物文化ができなかったのか。
可能性として考えられることは
- 繊維が硬く、荒い
- 枝が短い(ひとつひとつの繊維が短い)
- 採取できる量が少ない
- 沖縄以外では自生していないが、沖縄には他の繊維植物が豊富(アダンなど)
といったところでしょうか。唯一ハイビスカスが自生している沖縄では苧麻やアダン、月桃、糸芭蕉など様々な植物があったので、あえてハイビスカスを使うこともなかったのかと考えられます。繊維の硬さも加工するという点では不利に働きます。
麻は水が少なくても育ち、虫もあまり寄ってきません。糸芭蕉は育てるのに時間がかかりますが収穫量は多いです。
ハイビスカスは枝の節が多く、長い繊維を取ることに適していませんし虫も多く寄り付きます。繊維が短いということは、それだけ繋ぐ作業の負荷が増えることになります。
また、ハイビスカスの靭皮部分は微々たるもので、コスパが悪いことは明らかです。
そう考えるとあえてハイビスカスを使う文化がなかったこともうなずけます。
とはいえ素材としては魅力的なハイビスカス。
放っておいてもどんどん育つ成長力。剪定する際に捨てるのはもったいない。
今後、ハイビスカスの織物の可能性をもっと探っていきたいと思います。