ハンドメイド作品とは
ハンドメイド作品の定義は様々ですが、ここでは「工業的ではない手仕事でモノづくりを行う」こととし、ハンドメイド作家は、「個人もしくは数人の小規模で販売まで行う事業者」とします。ハンドメイドは洋服からアクセサリー、本、機械製品、飲食等様々なジャンルがありますが、今回自分自身の経験としてアパレル、アクセサリーの分野に絞ろうと思います。
現在市場に出ているアパレルや雑貨などは、ほとんど人の手で作られているので、手仕事という点ではハンドメイド作品も、工業製品も変わりはありません。
私自身は元家電メーカー勤務、その後アパレルの製造部門に属していたので現場の肌感はなんとなくわかりますし、生地卸業でも働いていました。
現在はハンドメイド作家として活動をしているのですが、それぞれの立ち位置でのモノづくりの違いやコストの違いについてお話しようと思います。
商品ができるまでの流れ
ひとつの商品ができるまでは、大まかに
デザイン→材料調達→サンプル→量産→販売
となっています。中小企業クラスになるとそれぞれ分業で担当者がつくことになりますが、ハンドメイド作家は一人で全て行うことが多いです。
さて、デザインはデザイナー、パタンナー、材料調達は生産管理部門、作るのは工場、販売はショップ店員が行います。みなさん仕事内容は違いますが、給料も違います。一般的に工場が一番安く、デザイナーが高いです。
ハンドメイド作家は一人分の人件費だけで済むので、企業の方が人件費は高くつきます。
最初はデザインです。企業は様々な市場調査やマーケティングを行い、1年前から準備にとりかかります。個人の場合は1年かけてひとつの商品を作るというよりは、思いついたものを作りながら日々改善していくというスタイルが多いのではないでしょうか。
材料調達は企業の方が有利となります。大量発注ができるので単価が低く抑えられますし、ある程度の規模であれば材料メーカーの担当者が来てくれたり、サンプルを見ながら選べたり提案をいただけたりします
個人仕入の場合は単価が高く、自分で適した材料を探し、選ぶコストもかかります。
金具ひとつでも作品の雰囲気に合わせて検討するために、実際に買って試すということを繰り返します。これらを商品の値段に反映するかどうかは作家次第です。
単純な材料単価でも個人と企業では2倍以上変わることもあります。
次はサンプル作りです。企業の場合、今ではCADやillustratorなどである程度失敗が少ないように設計し、サンプルは2回ほどに抑えます。
個人の場合も同じですが、高級な機材がない作家は手引きで型紙を作り、納得いくまで数十回サンプルを作ることもあります。サンプルのコストも値段に反映するべきですが、作家によっては含めない場合もあります。
量産体制に入ると自社工場がない企業は外注で作ってもらいます。
洋服は数百円から数千円、ロットと言われる生産量によっても値段は変わります。
個人的に、ここが一番コストの面、生産量の面、品質の面で個人作家が到底太刀打ちできない領域になります。
個人で作るものと量産で作るものは、見た目が同じでもコストの中身が全く違います。見た目の面では量産のものが品質が良いことが多いです。
まとめると
材料費単価はハンドメイド>量産
人件費はハンドメイド<量産
マーケティング費用はハンドメイド<量産
生産工賃はハンドメイド>量産
とそれぞれお金がかかる部分が違います。
なぜハンドメイド作品は安いのか
量産は、仕事の分業と効率化、そして大量に作ることで原材料費や工賃を抑え、薄利多売で売り上げを上げるシステムです。
ハンドメイドは少量生産がゆえに原価も高くなり、販売価格を上げるしかありません。
ただし一般的にハンドメイド作品は手に取りやすい価格帯が多いです。
これは消費者の
「手作りのものだから素人が作ってる。だから安くて当たり前」
というイメージと作り手の
「自分の作品に自信がないから安くしないと買ってもらえない」
という思いこみがあるためです。
個人作家が品質と価格面では量産品と勝負にならないのは目に見えています。
なので人件費などを抑えて価格を安くすることで戦いを挑んでいるわけです。
価格と品質という土俵からはずれた戦いをするのなら、後は圧倒的に個性的な作品を作るか、他がまねできない唯一無二のデザインを作るかしかないのですが、それでは一部の才能ある作家しか生き残れません。
ものづくりは好きだけど、それほど秀でた才能も技術を持っていない人はどうすればよいのでしょうか。
ハンドメイド作家が生き残るには
日本でのものづくりの現場を見ると、ぼったくりの商品というのはほとんどなく、値段が高いものにはそれなりの理由があります。
例えば高級ブランド品が商品自体の品質に比べて高いのは、広告とマーケティング、ブランドを作るのにとてもお金と時間をかけてきたらこそです。
誰にでも知られて、持っているとステータスになるような憧れのブランドにするにはとてつもない企業努力と信頼が必要です。
個人でも中小企業でも、ものづくりの現場はぎりぎりの利益で動いています。
ハンドメイド作家が値段の高い作品を売るためには、技術を高めることでも安売りすることでもなく、ブランドを作ることが求められます。
誰が作ってる、どこで作ってる、どうやってこの商品が出来たのか、どんな思いがあるのか、どこが他と違うのかといったことを知ってもらうことにまず時間とお金をかけるべきだと思います。
つまり自分の商品に対するファンを作るというのが最も大切な作業となります。
量産の現場にいたからわかることですが、品質は圧倒的に工場や専業の現場が強いです。
なぜなら毎日同じ作業を繰り返している職人さん、何千万もする工業用の機械が揃っているところに勝てる見込みはありません。
よっぽど個人の腕に自信がない限り、品質を追い求めるのは得策だとは思えません。
ハンドメイド作家を応援したい人へ
ものづくりが好きな自分にとって、ハンドメイド作家が増えることはとても嬉しいことですが、なかなか生活していくことが難しいのが現状です。
最初に書いた通り、量産品も人の手で作られています。
量産現場も魂込めて商品を作っています。
様々な人を介してできる商品は、洗練されていて購入した際の満足度も高いです。
その代わり多くの人に手に取ってもらいやすいようにデザインは平準化していきます。
一方ハンドメイド作品は作り手の思いがダイレクトに伝わり、心揺さぶられるものがあります。
一部の人にはすごく刺さるような作品もあり、作家が未熟な点を少しずつ改善していく成長も見ていくことができます。自分に合った作品を探すわくわく感も味わえます。
もしハンドメイド作家で応援したい人がいるなら、まずは購入することをおすすめします。
もしかしたら明日にも作家活動を終えて、その作品が二度と手に入らないかもしれません。
売れなければ撤退する可能性も高いのが個人作家の特徴です。
本来は個人作家とメーカーが対立する構造ではなく、お互いを補完するような関係性があればベストだと思います。