ハイビスカス

ハイビスカスから糸ができるまで

2024年現在の手法

2年にわたりハイビスカスの枝から糸を作る研究を続け、再現性の高い方法もわかってきた中、問い合わせをいただく機会も増えてきたので、今回はハビスカスカから糸を作る手法完全版としてシェアします。

この方法は理論上ほかの植物繊維でも糸が作れるようになっていますので、身近な草木で試してみても面白いかもしれません。

植物繊維から糸を抽出する

現在洋服など布の素材は綿やポリエステルなどが主流ですが、最も古くから使われている繊維は麻と言われています。麻は植物の靭皮を使った繊維で、紀元前から人類は植物から糸を作り、日用品や洋服を作っていました。

日本では現在でも植物から布を作る技術が伝統的工芸品として残っています。芭蕉布、葛布、しな布、アットゥウシなど、古代布と呼ばれるものがそれにあたります。

手法は多少違いますが、繊維を抽出するという点では共通の約束事があります。

それはリグニンの除去です。

枝の外側、固い部分がリグニン

植物繊維の糸にする部分は内側のセルロースを使います。

枝の固い部分、外側を除去して中のセルロースをどう取り出すかが地域により特色が出てきます。

例えば沖縄の芭蕉布は灰汁で芭蕉の茎を煮込み、静岡の葛布はススキに葛の繊維を包み込み、発酵させてリグニンを除去させています。
麻の伝統的な手法でも腐敗による繊維の取り出しを行っています。(レッティング)


大まかに分類すると、リグニン除去方法は
1.アルカリで煮込む
2.白色腐朽菌にリグニンを食べさせる
の2通りになることが分かりました。

アルカリで煮込む場合は、灰汁や消石灰、ソーダ灰などが手に入りやすい素材です。どれも数時間ほどでリグニンの除去が可能で、時間短縮できる反面、環境負荷やセルロース自体にも多少ダメージが出ます。また、煮込みにかかるガス代なども地味に負担になります。

白色腐朽菌の場合、空気中にも存在しているので、入手は容易です。
ハイビスカスの場合、枝を放置するだけでもいつかはリグニンは分解されます。
ただしこの方法はセルロースがいつ採取できるか不明確なため、できるだけ分解速度を速めるために菌が繁殖しやすい環境をそろえることを考えます。

菌が繁殖するには

・水分

・空気

・栄養

が必要になってきます。適度に湿度があり、密閉しない空間で菌が繁殖します。


最も重視するのは湿度を80%~100%にキープすることであり、一番簡単なのが「水に漬ける」です。
理想は、定期的に枝に霧吹きをかけたりするのがいいかと思いますが、水に漬ける理由は「放置するだけで良い」という簡単なところです。
白色腐朽菌の繁殖には空気も必要なので、水につけて大丈夫なのかという疑問も当初ありましたが、密閉しなければ繁殖すること、何より枝が常に湿潤している状態が重要なことがわかりました。

さて、白色腐朽菌が繁殖すると同時に、他の菌なども繁殖し、有機物が分解されるとともに臭いが発生する問題も出てきます。

この解決策は4つあります。
1.消石灰などで汚れを凝集する
2.納豆菌など他の菌で水質浄化する
3.コケなどの水質浄化の生物を共生させる
4.純粋培養した白色腐朽菌をつける

1は、定期的に消石灰を水に混ぜることで、多少の臭いは軽減されます。下水の浄化などでも利用されている方法です。

2は、他の菌にコロニーを占有させることですが、木材腐朽菌は強いため、たいていの菌は負ける可能性があります。

3.主に水中に酸素を供給する方法です。白色腐朽菌は好気性菌のため、長時間経つと水中の空気が減っていき、活動が鈍ります。
代わりに硫酸還元細菌などの嫌気性菌が増え、硫化水素を排出して臭いが出てくると考えます。そのため、水中をできるだけ酸素が含まれた綺麗な状態にするというのが臭いを抑える重要な要素となってきます。
師である出口さんは枝を水に漬け、その上にその土地由来のコケを乗せることで、臭いを軽減しています。(そのコケの種類は不明)

4。純粋な白色腐朽菌(シイタケの菌などから採取)を培養し、枝に直接かけて毎日霧吹きをすれば臭いがでることなくセルロースが取り出せます。(と予想)

ただ、臭いに関しては不衛生な環境ではなく適切な発酵期間を見極めれば、それほど問題視する点ではありません。

植物から糸を取る方法というのはこれが正解というのはないので、最終的に自分が作りたいものに合わせて調整していくことになります。
例えばレモングラスや月桃などは発酵させずにそのまま乾燥させて糸にしたりしています。

ちなみに巷に出ているパイナップル糸や植物のハイビスカス糸などは、綿と混ぜて強度や品質を担保しています。

つまり植物100%糸で日常的に使うには繊維の強度、太さ、加工コスト、生産コストなどを考えると難しく、その点麻はとても優秀な素材です。

伝統的工芸品で植物繊維100%のものが少なくなっているのも、大変な手間がかかるためどうしても高額になること、作るのにしんどすぎて担い手が少ないということが考えられます。

前述しましたが、最も簡単な方法はアルカリで煮込むということなので、ガス代など気にならなければアルカリ煮込みがおすすめです。

RELATED POST