助剤がなければ絵の具は作れない
天然染料の実験を行い、顔料化にも着手してくると、次はその顔料をどう使うかという研究に進んでいきます。
顔料は粉の状態ではなかなか紙や布に定着しません。水や油にも溶けにくいので、粘着力のある糊が必要です。それが助剤です。
顔料の絵の具化を調べだすと、西洋、東洋で手法が違うものから似たようなものもあり、捺染や型染めの手法にまで話が広がってきたので、一度整理します。
メディウムとは
顔料に混ぜる溶剤のことをメディウムと言います。他にも展色剤、バインダー、色糊など名称は様々ですが、色の定着を助けるという意味では共通です。
今まで実験してきたメディウムは以下です。
- カゼインテンペラ
- 膠
- アラビアゴム
- スクリーンメディウム
- アルギン酸ナトリウム
- せんたく糊
- デンプン糊
- 型糊(糯粉、白糠)
- 豆汁(呉汁)
- オイルカラーメディウム
- 水性顔料分散剤
簡単に特徴を説明します。
- カゼインテンペラ
カゼインとは牛乳などに含まれる動物性たんぱく質のひとつです。粘度があり接着性が強いので絵画などで使われています。
自分で粘度を調整でき、発色が良くコスパもそこそこ良いです。
注意点として、アルカリ性の水にしか溶けないため、カゼインメディウムは必然的にアルカリ性。天然染料のPH次第では分離してしまいます。
また、ミョウバンとは混ざらないため顔料化した色素には使えません。 - 膠
動物の皮などから作られるゼラチンのようなものです。日本画、岩絵の具などで使われます。撥水性もあるので防染の役割も果たせます。
膠液を作るのに時間がかかり、天然染料に使うと少し色味が変わるので使用頻度は低いです。
注意点は、コスパが高いことと腐りやすいため、作り置きはあまりできないところです。 - アラビアゴム
植物からとれる天然樹脂になります。インドのアジュラック染めによく使われます。
水にも溶けやすく染料の粘度を調整しやすいので使用する分には問題ありません。
注意点はコスパが高いことと、日がたつと固まるところ、少し黄色みが足されるので繊細な色の天然染料には向きません。
防染糊のペーストにしてスタンプするには丁度良いかと思います。 - スクリーンメディウム
シルクスクリーン(捺染)に使う時に絵の具に追加することで、色の伸びと乾きを遅らせる効果があります。
糊としての使い道はなく、染料のかさましと、泥染料の粘度を逆にさらさらにしたい場合に使います。 - アルギン酸ナトリウム
海藻などに含まれるねばねば成分です。水に溶かし、捺染などに使われます。
簡単に作れ、コスパも悪くないのでメディウムとしては優秀です。ただしミョウバンと混ぜるとだまになるため顔料には混ぜられません。
水に溶かす必要があるため染料が薄くなります。かなり濃い染料と混ぜる場合はおすすめです。 - せんたく糊
ポリビニルアルコールなどの化学成分を使ったのり。
水分が含まれるため染料に混ぜると色が薄くなりますが、コスパよく、くせもないため様々な用途で使用できます。 - デンプン糊
ジャガイモなどに含まれる澱粉成分の天然糊。こちらもせんたく糊と同じように使え、せんたく糊より粘度が高いため、もう少し粘りが欲しい時に追加します。 - 型糊
捺染、抜染に使われる、もちもちした糊です。澱粉、糠など染色家たちによりレシピが様々ありますが、市販のものでも十分です。天然染料と相性が良く、混ぜてもだまになることはありません。
色止めとにじみ止めどちらの効果もあるので最も使用頻度が高いです。 - 豆汁(呉汁)
大豆の絞り汁(豆乳)を使います。布にあらかじめ塗っておくとにじみ止めの効果と、濃染の効果もあります。
防水、濃染、にじみ止めと万能メディウムのように思われますが、どれほどの濃度か、何回塗るか、染料に混ぜるか布に先に塗るか後に塗るかなどによって効果が変わってくるので扱いが難しいです。
天然染料の難しさ
天然染料を捺染、スタンプとして使う場合、今のところ型糊が一番相性がよさそうでした。
さらに色素を定着させるためには呉汁を追加します。
呉汁は草木染めの世界では、色付きを濃くする濃染剤の役割で使われます。
主に綿などの植物繊維の表面をタンパク質で覆い、表面をプラスイオンにします。
そうすると色素のマイナスイオンとくっつきやすくなるため、濃く染まります。
呉汁が乾くと生地表面を不溶性たんぱく質がコーティングされるため、防水の効果や、さらに染料を塗った時に生地に染み込みすぎないにじみ止めにもなります。
以上のことから、助剤というのは染めの過程において最も気を遣う工程のひとつであり、単純に原料や手法を分かっただけでは綺麗に染めつけができないことが分かります。
モノづくりをしていつも思うのは、マニュアル化できることとできないことが明確に分かれているのが難しくもあり、面白いところだと思います。
例えば原料の種類、分量、作り方などは数値で出せますが、気温、湿度、生地の状態、助剤の状態で塗り方や乾燥時間を調整したり人の目で判断するものは経験則になります。
京都の老舗で、作り方や手の内をオープンにして、出来るものならやってみなはれといった職人さんを数多く見てましたが、マニュアル化できない部分こそが「核心」だと分かっているからこその発言だと思います。